【FP解説】年収はいくらあれば幸せ?幸福度の新指標ファイナンシャル・ウェルビーイングとは?
生活を豊かにして人生の幸福度を上げたいと考えたとき、話題に挙がりやすいのが「年収」です。一般的には高年収の世帯ほど使えるお金が多く豊かな暮らしができ、満足度が向上するとイメージされることが多いでしょう。
では、実際のところ、年収が高くなるほど仕事の満足度や人生の幸福度は高くなるのでしょうか?
この記事では、年収と満足度・幸福度の関係についての研究や調査を紹介します。そして、幸福度を高めるための新しい考え方の1つである「ファイナンシャル・ウェルビーイング(FWB)」の概要、FWBを向上させる方法についてもわかりやすく解説します。
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目次
幸福度のピークは7万5,000ドルという説がある
「年収が高いほどお金があって幸せだ」「高年収の人はお金持ちで羨ましい」など、高年収ほど幸福度が高いというのが、多くの人が無意識に抱いているイメージではないでしょうか。
しかし、「お金が多ければ幸せ」という考えに疑問を投げかける研究がアメリカで行われたことがあります。
2015年に「ノーベル経済学賞」を受賞したプリンストン大学のダニエル・カーネマン名誉教授とアンガス・ディートン教授は、年収と幸福度の関係に関する研究結果を発表しています。それによると、年収7万5,000ドルまでは年収が上がるに従って幸福度は上昇していく一方、それ以降は年収が上昇しても幸福度はそれに比例せず、あまり変わりません。
日本の研究では年収が1,000万円を超えると幸福度の上昇幅が小さくなっている
日本でも年収と幸福度に関する調査が行われました。前述のアメリカの研究と同様、一定の年収まで上がると、それ以降は満足度が上がりにくくなるという結果を得られています。
内閣府の「満足度・生活の質に関する調査報告書2023」によれば、年収と満足度の数値の関係は以下のとおりです。
年収300万円未満の人と年収700万円以上の人では、満足度が「1.33」もの開きがあることが分かります。年収が高くなるほど雇用に対する満足度が上昇しているのです。
一方、年収が1,000万円を超えると満足度の上昇幅は少なくなります。2022年版の「満足度・生活の質に関する調査報告書」によれば、年収階層と雇用賃金満足度の関係は以下の通りです。
出典:内閣府「満足度・生活の質に関する調査報告書2022」
「年収100万円以上300万円未満」から「年収700万円以上1,000万円未満」までは正規雇用も非正規雇用も右肩上がりで雇用賃金満足度が上昇していますが、「年収1,000万円以上2,000万円未満」では正規雇用の満足度の伸びが鈍化し、非正規雇用に至っては満足度が減少しています。
アメリカの研究と同様、一定の年収を超えると幸福度(満足度)が比例しなくなっています。
仕事の「やりがい」も幸福度に大きく関係してくる
内閣府の「満足度・生活の質に関する調査報告書2023」によれば、年収の高さだけでなく、「やりがい」も満足度に影響しているというデータがあります。
同資料によると、仕事への意識として「やりがいを感じる」と思う人の雇用環境と賃金に対する満足度は以下のとおりです。
一般的に非正規社員よりも正規社員のほうが高年収ですが、やりがいを感じない正規社員よりもやりがいを感じる非正規社員のほうが雇用環境と賃金に対する満足度が高くなっています。仕事を「誇りに思う」「喜びや楽しみを感じる」「仕事や働き方を多くの選択肢から選べる」という他の項目でも同様に、仕事に誇りや喜びを感じる人の満足度のほうが高くなっています。
上記の結果から、雇用や賃金の満足度・幸福度はお金だけで決まるわけではなく、さまざまな要因が組み合わさって決まるといえるでしょう。
年収の高さと幸福度が比例しないのはなぜ?考えられる3つの主な理由
前章では「年収の高さと幸福度は必ずしも比例しない」と解説しました。ここでは、なぜ年収と幸福度が一致しないのか、考えられる主な理由について解説します。
1.年収がある程度まで上がると欲しいものが手に入るから
一般的に、年収が上がるほど余剰資金が増え、高価な商品やサービスを購入できるようになります。年収が上がるにつれて憧れていた商品を購入したり高級なレストランで食事をしたりできるようになりますが、ある程度年収が上がった時点で「もう買いたいものや欲しいものはない」と満足する人もいるでしょう。
高価な物・サービスを購入できる状態に慣れて新鮮味を失うことで、幸福度が上がらなくなることが考えられます。
2.労働時間が長いから
業種や職種によって年収と労働時間の関係は変わりますが、一般的に高年収とされる仕事は労働時間が長い傾向にあります。高年収でもお金を使う時間がないほど多忙な状態が続くと、幸福度を実感しにくいのでしょう。
「満足度・生活の質に関する調査報告書2022」でも、労働時間が長いほど満足度が低下しています。年収300万円の正規雇用・非正規雇用の人の労働時間と満足度の関係は以下のとおりです。
出典:内閣府「満足度・生活の質に関する調査報告書2022」
労働時間が長いとプライベートの時間が減ってお金を使うことができなかったり、健康を害したりして満足度が低下すると考えられます。
3.責任が重い仕事でストレスをためているから
年収が高い人は、一般社員よりも責任が重い管理職や役員であることも多いです。判断1つが会社の業績を左右する責任の重さがストレスになっていることが考えられます。
また、管理職以上は役職手当を得られる代わりに残業代が支給されないケースも多く、一般社員よりも残業時間が長くなる傾向にあります。家族との団らんの時間がとれなかったり、趣味に没頭する時間が取れなかったりすることも、幸福度が上がらない原因でしょう。
人生の幸福度を高めるために実践したい3つのこと
前出の複数のデータを見ると、ある程度の水準までは年収が上がることで雇用満足度や幸福度が上がりますが、一定水準を超えると満足度は上がらなくなっていきます。
ここでは、人生の幸福度を高めるために実践したいポイントを紹介します。
1.物質ではなく、体験にお金を使う
年収が上がり始めたころは、高価な物や高級な食事にお金を使うことに満足感を覚えることも多いですが、慣れてくると満足度は薄れていきます。
人生の満足度を上げるなら値段が高いものではなく、「旅行」「ドライブ」など体験や経験にお金を使うと良いでしょう。身をもって経験したことは思い出として長く心のなかで残り、次の楽しみを見出す時のきっかけになることもあります。
2.没頭できる趣味を探す
お金をかけることばかりではなく、自分にとって没頭できる趣味を見つけることも、人生の満足度・幸福度を高めるのに役立ちます。仕事以外のことに没頭することでストレスから解放され、幸福度が高まると期待できます。
「満足度・生活の質に関する調査報告書2023」でも、仕事にやりがいを感じる人の81%が趣味や生きがいがあると回答しています。一方、仕事にやりがいを感じない人が趣味や生きがいがある比率は60%に留まります。
3.お金についての知識を身につける
一定以上まで年収が上がると幸福度は上がりにくいと解説してきましたが、お金についての知識を得ることも、人生の満足度を高めるには大切な要素です。例えば趣味に没頭するにしても、体験や経験にお金を使うにしても、安心して生活できるお金を持っていることが前提です。お金の知識を身につけることで、将来のお金の見通しが立てやすくなり、結果的に幸福度の向上に繋がります。
最新の研究では幸福度が高い人は年収が上がるほど幸福度が高くなる
ディートン教授と共に論文を発表したカーネマン名誉教授は年収の増加と幸福度に関する新たな研究結果を2023年に発表しました。
2023年の研究では、幸福度が低いグループと幸福度が高いグループに分けて分析している点が2010年の研究との大きな違いです。
幸福度が低いグループの人々は、幸福度の伸びがある一定の年収で頭打ちになりますが、幸福度が高いグループの人々は、年収の増加とともに幸福度の上昇傾向がさらに増強されます。
出典:Killingsworth MA, Kahneman D, Mellers B. “Income and emotional well-being: A conflict resolved”
年収の高さ以外の面でも幸福を感じていることが、人生の満足度を高める要因の1つであるといえるでしょう。
幸福度の新指標として注目されている「ファイナンシャル・ウェルビーイング(FWB)」とは
前項では、「最新の研究では、幸福度が高いグループは年収が増加するほど幸福度が増している」という研究結果があると紹介しました。年収を上げてどんどん幸福度を上げるためには、そもそも幸福度が高い状態を目指すことが大切になるでしょう。
ここでは幸福度の指標として新たに注目されている「ファイナンシャル・ウェルビーイング」について紹介します。
まず、「ウェルビーイング」という言葉は、「個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること」と定義されています。(厚生労働省「雇用政策研究会報告書」より)
一方、ファイナンシャル・ウェルビーイング(以下、FWB)は、「現在および将来のライフイベントを適切に把握して債務の支払いができ、将来の自身の経済面の不安を解消させ、人生を楽しむための自律的な選択ができる状態」という概念のことです。
イギリスでは公的機関である金融年金サービス局が2020年に国民のFWBに関する国家戦略を立案し、2030年までに達成すべき5つの目標「金銭面の素養、貯蓄する人の数、借入金の管理、債務相談の改善、未来志向」を定めています。日本の金融庁も「2023事務年度金融行政方針」で言及しており、欧米だけでなく日本国内でも注目され始めています。
第一生命経済研究所によれば、ファイナンシャル・ウェルビーイングを高める要素として「年齢」「性別」「世帯年収」ではなく「家計と資産・満足度の影響度」が大半を占めています。
単に年収が高いだけではなく、現在の家計収支をコントロールして将来の家計の見通しを立てられるかどうかが家計満足度を左右することになります。
ファイナンシャル・ウェルビーイングを高めることで年収1,000万円の差を埋める幸福を得られる可能性がある
ブロードマインド株式会社の「幸福度とファイナンシャル・ウェルビーイングの関係性に関する調査」によれば、「幸福度」において、FWBが高いと自認していることは年収1,000万円の収入差を埋めるほど効果があるとされています。
まず、FWBと幸福度の調査ではFWBが高い人ほど幸福度が高い傾向にあり、FWBの高低が幸福度に影響していることが分かります。
また、年収400万円未満を除くと、年収が高いほど幸福度が高い傾向にあることから、年収の金額も幸福度に影響すると考えられます。
一方、「年収400万円未満でFWBが高い人」と「年収1,000~1,500万円未満でFWBが低い人」を比べた場合、同等の幸福度であることが明らかとなりました。
本来は年収の高さが幸福度を上げると期待されますが、FWBの低さが打ち消してしまっています。一方でFWBが高いことは、年収にして1000万円相当の幸福度をもたらす可能性があるといえます。
参考:ブロードマインド株式会社「【調査結果|幸福学前野教授監修】幸福度とファイナンシャル・ウェルビーイング(FWB)の相関で新事実が明らかに」
参考:ブロードマインド株式会社│ファイナンシャル・ウェルビーイングを高める従業員向け金融教育プログラム「ブロっこり」
ファイナンシャル・ウェルビーイングを高める2つのポイント
FWBが高く、経済的に自立できているほど幸福度が高くなります。人生の幸福度を高めるならFWBが高まるポイントを知って実践しましょう。
日常生活のなかでFWBの向上に役立つポイントとして、以下の2点を紹介します。
1.ライフプランを明確にする(ライフデザイン)
第一生命経済研究所の調査によると、仕事や学業、家庭生活、余暇生活、老後の生活などの多様な面を含む「ライフデザイン」について深く考えている人ほどFWBが高くなっています。
また、ライフデザインを明確にしている人は目標に向かってお金を貯めるため、将来に向けて家計をコントロールして積極的に資産を形成する傾向にあります。
ライフデザインが「できている」層は、金融資産が少なくても幸福度が高い水準です。ライフデザインが「できていない」や「いらない」人で、かつ金融資産が2,000万円以上の人と比べても高いことから、FWBと幸福度を上昇させるなら人生の明確な目標を計画しましょう。
出典:株式会社第一生命研究所「国民のファイナンシャル・ウェルビーイング向上に向けて(後編)」
2.金融知識(金融リテラシー)の向上
FWBを向上させる方法として、金融リテラシーの向上も有効です。金融リテラシーは、「経済的に自立し、より良い生活を送るために必要な金融や経済に関する知識や判断力」を指します。
第一生命経済研究所の調査でも金融リテラシーが高いほどFWBが高いという結果が出ています。金融リテラシーが向上すると、車や住宅など高額な出費やローン、保険契約、貯蓄、資産運用といった様々な場面で金融知識に基づく正しい判断ができるようになります。計画的なお金の準備と家計管理でやりたいことを実現しやすくなり、幸福度が上昇するのでしょう。
ファイナンシャル・ウェルビーイングの向上にFP相談を活用してみよう
前章までに幸福度を向上させるならFWBを向上させることが大切であり、FWBの向上には「ライフデザイン」と「金融リテラシーの向上」という2つの手段があることを紹介しました。
ただし、ライフデザインや金融リテラシー向上には明確な方法や正解の勉強のやり方はありません。闇雲にライフデザインやお金の勉強をしても、ご自身だけでは本当にFWBが向上できるか判断が難しいでしょう。全てを一人でやるのは難しいと感じる方もいます。
FWBを向上させて人生の幸福度を高めるなら、ライフプランニングと金融リテラシーの専門家であるファイナンシャルプランナー(以下、FP)に相談しましょう。
FPは金融や税制、不動産、相続、資産運用、生命保険など幅広い分野に精通した専門家です。
FPは顧客の収入・支出・資産・負債・将来の目標などを聞き取ったうえで、現状の家計の無駄や、今のままで目標が叶えられるかを分析し、改善策を織り込んだライフプラン表やキャッシュフロー表を作成して提示してくれます。
改善策の実行についても、各種手続きのフォローや各分野の専門家の紹介などのサポートをしてくれるため、FPからのアドバイスやサポートを受けることで金融リテラシーの向上に役立ちます。
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まとめ
本記事で紹介したさまざまな研究や調査の結果をみると、ある一定の水準までは年収の高さと幸福度・満足度は比例しますが、一定水準以降は必ずしも年収と満足度は比例しません。
一方、仕事にやりがいがあったり誇りを持ったりして仕事をしている人や、お金に関して知識を持っていて自立した判断ができる人は、年収に関係なく満足度が高いことが分かっています。
人生の満足度を高めたい人は仕事の待遇向上を目指すのに加え、ライフデザインや金融リテラシーの向上のために、お金の専門家であるFPに相談することも検討してみましょう。
- ID:BM–551