財形貯蓄はやめたほうがいい?メリット・デメリットをFPが解説
財形貯蓄は給与天引きによって自動的に積み立てられる貯蓄制度です。勤務先に制度がないと利用できませんが、貯蓄に苦手意識を持っているなら利用を検討したい仕組みといえます。
「財形貯蓄はやめたほうがいい」と言われるのは、低金利の時代では資産を増やす効果をあまり期待できないからです。利子や運用益が少なく、単に給与天引きで貯蓄ができるにとどまり、金融商品によっては元本割れのリスクまであります。とはいえ、さまざまなメリットがあり、利用して良かったと感じる人も少なくありません。今回は財形貯蓄の仕組みやメリット・デメリット、おすすめの人の特徴などを解説します。使ったほうが良いか自分で判断できるようになるため、ぜひ最後まで読んでもらえると幸いです。
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財形貯蓄の種類
財形貯蓄とは毎月の給与から天引きで、勤務先が提携する金融機関に資金を積み立てる貯蓄制度です。積立金の用途によって財形住宅貯蓄・財形年金貯蓄に分かれ、目的にかかわらず自由に使える一般財形貯蓄もあります。財形貯蓄の種類ごとの基本情報を次の表にまとめました。
一般財形貯蓄 | 財形住宅貯蓄 | 財形年金貯蓄 | |
用途 | 自由 | ・住宅購入 ・リフォーム資金の準備 |
年金 |
加入条件 | 勤労者 | 満55歳未満の勤労者 | |
積立期間 | 3年以上 | 5年以上 | |
非課税 | なし |
貯蓄型・保険型 |
・貯蓄型550万円まで |
住まいの資金作りを目的とした財形住宅貯蓄
財形住宅貯蓄は住宅の建設や購入、リフォームといったマイホームの資金作りを目的とした貯蓄制度です。満55歳未満の勤労者が対象で、財形年金貯蓄や一般財形貯蓄との併用も可能です。マイホームが欲しいすべての人が利用できるわけではなく、対象の物件や施工費用などには次の条件が設けられています。
・床面積が50㎡であること
・(中古住宅の場合)20年以内に建設された、または一定の耐震基準を満たす物件であること
・勤労者自身が対象の物件に住むこと
・(リフォームの場合)施工後の住宅の床面積が50㎡以上であること
・(リフォームの場合)施工費用の総額が75万円を超えること
財形年金貯蓄と合算して550万円までの元本および利子が非課税になるのが財形住宅貯蓄の特徴です。金融商品には定期預金、定期貯金、有価証券、生命保険、生命共済、損害保険などがあります。将来的にマイホームの購入や大規模なリフォームの予定があるなら、積極的に利用したい制度の一つです。
老後に受け取る年金を増やせる財形年金貯蓄
財形年金貯蓄は、60歳以降に年金として受け取る資金作りを目的とした貯蓄制度です。財形住宅貯蓄と同様、満55歳未満の勤労者が対象で、ほかの財形貯蓄制度との併用も可能です。国民年金や厚生年金と同じく一定の期間ごとに受け取る仕組みで、受取期間は5年から20年の間で設定します。なお保険商品を選択した場合、終身での一括受取を選択できます。積み立て終了から年金の受給開始まで任意で据え置き期間を設定でき、お金が必要なタイミングに合わせて受け取る時期を調整しやすいのも特徴です。貯蓄型は550万円まで、保険型は385万円まで元本にかかる利子が非課税です。金融商品は定期預金や定期貯金、有価証券、生命保険、生命共済、郵便年金、損害保険などが該当します。
用途を定めず自由に使える一般財形貯蓄
一般財形貯蓄は特定の使用目的を定めず、自由に使える資金を作るための貯蓄制度です。突然の病気やケガへの備え、車の購入や旅行の費用、結婚や育児などライフイベント用の貯蓄など、幅広い用途に使えます。原則3年以上の期間、定期的に積み立てる必要がありますが、貯蓄開始から1年経過した後ならば自由に払い出しできます。財形住宅貯蓄や財形年金貯蓄は一人で一口しか契約できませんが、一般財形貯蓄は複数の契約が可能です。注意したいのが、財形住宅貯蓄や財形年金貯蓄と異なり、一般財形貯蓄の元本にかかる利子には税金が発生する点です。一般財形貯蓄は、「将来何が起きるか分からないから貯蓄したい」「結婚や出産を控えて将来的にお金がかかりそう」という人向きの貯蓄制度といえます。
財形貯蓄のメリットとは?
財形貯蓄は給与天引きなので、貯蓄が苦手な人も無理せず将来の資金を確保できる制度です。目的やニーズごとに制度を使い分けることで、利用者に合った資産形成が実現しやすいのも利点です。目的外の用途への払い出しや転職後の引き継ぎも可能で、柔軟に運用したい人に適しています。ここでは、財形貯蓄のさまざまなメリットを紹介します。
目的に応じた資産形成が実現する
財形貯蓄は住宅購入費・年金、それ以外というように、目的ごとに財源を確保できるのが利点です。貯蓄用の口座へと預け入れるだけでは、急にお金が必要になった時についつい使ってしまう場合があります。用途に応じて分類することで、意図していない目的外の使用を防げるでしょう。
給与天引きで手間がかからない
貯蓄は給与からの天引きで行われるため、勤労者側に手間がかかることはありません。住民税や公的年金の保険料と同じ感覚で貯金できるため手軽です。貯蓄に苦手意識があり中々続かない人でも、無理せずまとまった資金を準備できるでしょう。給料のうち一定の金額を貯蓄に回す場合と比べると、財形貯蓄は明らかに手間がかからない方法です。
目的外の用途にも対応している
財形貯蓄は住宅の購入や年金など特定の目的に即した貯蓄制度ですが、目的外の用途による引き出しにも対応しています。それなら区分した意味がないのではと思うかもしれませんが、引き出しや解約の手続きには手間がかかります。財政住宅貯蓄や財形年金貯蓄では目的外の引き出しの場合、利子が課税対象となるからです。こうしたデメリットを鑑みると、気軽に目的外の用途で使えるとはいえません。一定の抑止力が働いていて、貯金と比べて使い込んでしまうリスクは低いのです。
住宅ローン融資を利用できる
財形貯蓄制度を活用した場合、勤務先が提携する金融機関の住宅ローン融資を受けられる場合があります。比較的金利が低いうえに長期融資が可能で、勤務先を通して申し込むため、個人での融資に比べて借り入れしやすいのが特徴です。財形貯蓄を始めて1年以上かつ残高が50万円以上など一定の条件がありますが、将来的に住宅や土地の購入を検討中ならメリットが大きな制度です。
他の制度と併用できる
財形貯蓄の各制度はそれぞれ他の制度と併用可能です。財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は1人1契約まで、一般財形貯蓄は制限なくいくつでも口座を持てます。マイホーム用・年金用・子どもが生まれた時用と分けたり、一般財形間で介護用・子育て用・結婚用と分けたり、柔軟に資金源を確保できます。自分で複数の口座を管理することなく、用途ごとの資金を準備できるため手間がかかりません。
利子が非課税になる場合がある
原則として預貯金等で得た利子には、一律20.315%の税金が発生します。しかし財形貯蓄なら、一般財形貯蓄を除き、一定の利子は非課税になる恩恵を受けられます。財形住宅融資と財形年金貯蓄を個別または合算で利用した場合、元本550万円までの利子には税金がかかりません。用途に制限がある分、現金+利子が丸々自分のもとへ入るのも利点です。
転職先に制度があれば引き継ぎできる
財形貯蓄は勤務先に依存する制度です。転職した時の扱いはどうなるのか気になる人もいるかもしれません。結論からいうと、転職先に制度があり、かつ退職から2年以内に手続きを行いさえすれば、以前の勤務先で積み立てた財形貯蓄を転職先に引き継ぐことが可能です。必ずしも転職によって引き出しや解約を余儀なくされるのではなく、引き続き貯蓄を継続できるのは大きなメリットです。2年の猶予期間があるため、転職先がすぐに見つからないとしても、元の金融機関にプールしておけます。
財形貯蓄のデメリットとは?
財形貯蓄は手軽に将来への備えを確保できる反面、資産形成の観点では強いとは言えません。金利が低く、利子が非課税になることによるメリットを感じにくいためです。制度の有無は企業によって異なるため、勤務先しだいでは物理的に利用できないのも難点です。財形貯蓄のデメリットをまとめて解説します。
金利が低い
財形貯蓄は保険や定期預金など金利が低い金融商品へと積み立てるため、利子の非課税措置の恩恵を感じられない可能性が高いです。仮に年利が0.01%の商品に100万円を預け入れたとしても1年後の利子はたったの100円です。税金は20円程度なので、払っても払わなくてもどちらでも良いと感じる人もいるでしょう。超低金利の時代では財形貯蓄の非課税メリットは期待できないかもしれません。関連事項として知っておきたいのが元本割れのリスクもあることです。保険や投資信託など選択する金融商品によって、金利はもとより、貯蓄額より少ない金額しか受け取れない場合もあります。
勤務先に制度がないと利用できない
財形貯蓄は制度がない企業に勤務している人は利用不可を余儀なくされます。これから転職先を探すならまだしも、今の会社に財形貯蓄制度がないと、使いたくても使えません。独立行政法人勤労者退職金共済機構が行った調査によると、一般財形・年金財形・住宅財形の仕組みがある企業の割合はそれぞれ34.6%・15.5%・14.7%とのことです。数多くの福利厚生制度の中で、導入率は低いとは言えないものの、勤務先の都合によってはそもそも利用できない場合があります。
出典:労働政策研究・研修機構「企業における退職金等の状況や財形貯蓄の活用状況に関する実態調査(企業調査)」および「勤労者の財産形成に関する調査(従業員調査)
インフレ局面に弱い
財形貯蓄は比較的低金利の制度なので、貨幣価値が上がるインフレ局面には弱いと言わざるを得ません。貨幣の価値は日々変動していて、表面上は同じに見えても10年前の100円と現在の100円では価値が違います。インフレ局面では物価が上がるため、今は1,000円で購入できる商品が半年後では1,100円出さないと買えないことも起りえます。つまり10年後に利子を含めた現金を受け取っても、インフレの影響を考慮すると、資産が目減りするリスクがあるのです。
目的外の払い出しは課税の対象になる
財形住宅貯蓄と財形年金貯蓄の場合、目的外の用途で払い出すと、得られた利子は非課税にはなりません。住宅関連または年金以外の目的で引き出し、解約した場合、20.315%の税金を控除した金額しか受け取れないことを意味します。追徴課税の仕組みがあるのが特徴で、課税対象になるのは過去5年間で得られた利子のみです。逆にいうと5年以上運用した人は、一部の利子については非課税の恩恵を受けられます。
別の財形所畜への預け替えはできない
財形貯蓄は一度積み立てを開始した後、用途の変更や金融商品を変えることができません。途中で「マイホームは厳しいから年金の積み立てに切り替えよう」と考えても、この申し出は受理されないのです。切り替えではなく併用は可能なので、元の用途を変更したいと考えたら、別途新たに契約を交わす必要があります。結果的に給料から控除される金額が増えてしまうため、資金計画は当初の段階で入念に練りましょう。
拠出金に所得控除は適用されない
給料天引きの拠出金は掛け金ではないため、所得控除の対象にはなりません。財形貯蓄は生命保険料控除のように掛け金の一部を所得から控除できる制度ではないため、税金を抑えるという観点では恩恵がないといえます。企業型確定拠出年金やiDeCoは掛け金の全額が所得控除の対象となる制度です。給与から引かれる所得税や住民税を軽減したいとお考えなら、財形貯蓄ではない別の制度の検討が必要です。
財形貯蓄がおすすめの人とは?
メリットとデメリットを把握しても財形貯蓄を使うべきか分からないとお悩みの人もいるでしょう。ぜひ制度を使ってほしいと感じる人の特徴は次の3つです。
・貯蓄を自動化したい
・自分の意思で貯蓄を継続できるか不安
・将来的にマイホームの購入を検討している
上記に当てはまり、勤務先に制度があるなら利用をおすすめします。それぞれ使うべきといえる理由等を解説します。
貯蓄を自動化したい人
財形貯蓄は「その都度、給料から貯蓄に回す手間が面倒」「自分の意思では貯金が続かない」などの理由で、仕組みを自動化したい人に向いています。はじめに決めた金額が毎月の給料から天引きされ、勤務先と提携の金融機関の口座へと移管されます。積み立て開始以降、本人は何もしなくてよいため、自ら貯蓄する場合と比較して負担は少ないでしょう。
自分の意思で貯蓄を継続できるか不安な人
財形貯蓄は給料を都度使い切ってしまい、まったく貯金できないという人にもおすすめです。給料に手を付ける前に自動で積み立てられる財形貯蓄は、自己管理が苦手な人にうってつけです。将来に漠然とした不安がある時に貯蓄できない状況が続くと焦りが募るばかりです。気持ちの強さだけに頼らず、自動的に貯金できる体制を整えることにシフトしてはいかがでしょうか。
マイホームの購入を検討している人
財形貯蓄の利用をとくに推奨したいのは、将来的にマイホームの購入を検討している人です。住宅購入用の資金を手軽に準備できるほか、貯蓄額の10倍(最大4千万円)まで借り入れられるため非常に心強い存在が得られるでしょう。財形住宅融資は金利が低い傾向にあり、個人で借りる場合と比べて負担を抑えられます。とくに賢いのが住宅購入の頭金を積立金で一括払いし、毎月の返済を住宅ローンの借入金で捻出するという方法です。今の給料や貯蓄では購入しにくいハイグレードな住宅に住みたいなら、ぜひ財形貯蓄の活用をご検討ください。
財形貯蓄をやめたほうがよい人とは?
銀行預金より高い傾向があるとはいえ、財形貯蓄は決して高金利とはいえない制度です。政府が2%のインフレ目標を打ち出しているなか、インフレに強いとはいえない財形貯蓄は頼りないと感じる人もいるでしょう。実際のところ、資産形成を考えるなら別の制度の利用を検討したいところです。誰でも気軽に始められる資産を増やすための2つの制度を紹介します。
資産形成ならつみたてNISAやiDeCoの利用がおすすめ
手軽に資産を増やしたい人が真っ先に利用したい制度がつみたてNISAです。年間40万円が上限の投資信託型の制度で、本来20.315%の税金がかかる運用益が20年間非課税になるのが特徴です。専門家が利益を出す目的で運用するため、銀行預金や財形貯蓄よりも資産が増える期待を持てるでしょう。はじめに金額や頻度を設定すれば、基本的にほったらかしで済み、手軽さは財形貯蓄とほぼ変わらないのも利点です。iDeCoは老後の資金作りを目的とした制度で、つみたてNISA同様、運用益が非課税です。掛け金は全額所得控除の対象で、資産形成をしながら節税も意識できるのが強みです。積み立て式でリスクを抑えて資金を増やしたいなら、ぜひつみたてNISAやiDeCoの活用を検討ください。
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財形貯蓄が向いているかどうかは金融資産の保有状況や個人の性格などにも左右されます。
記事を読んでも使うべきかわからないとお悩みなら、金融の専門家であるFP(ファイナンシャルプランナー)への相談を検討してはいかがでしょうか。一人ひとりの状況に応じたパーソナライズな提案ができるので、きっと自分に適した資産形成の方法が分かるでしょう。
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