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老後

老後とお金の基本

老後のお金の準備

人生の三大出費のなかでも、最後に訪れるのは「老後資金」です。日本人の平均寿命はひと昔前からのび続けており、その分だけ老後を過ごす時間も長くなっています。

65歳で退職してから数十年と長きにわたって続く老後費用をカバーするなら、若いうちからの対策が欠かせません。ただ、実際にどのくらいの金額を、どのように集めなければいけないのか、不安に感じている人も多いことでしょう。

ここでは老後に必要な退職資金の計算方法や、健康や介護といった万が一に対して必要になるコスト、それらの費用を確保するための方法などについて解説していきます。 老後費用とその準備について、これから一緒に考えてみましょう。

3つのポイント

1

退職時に必要な「老後資金」

人生における資産の推移は、就職から定年退職までにお金を積み立てる時期と、退職後にお金を取り崩しながら生活する時期に大別されます。

退職までに貯めるべき金額を明らかにするには、老後の収入の基本になる「年金」と、老後の支出額の2つを把握することが必要です。

老後に受け取れる年金の平均額
退職時に仕事を辞め、それからは働かないとすると、収入の柱になるのは「老齢基礎年金(国民年金)」と「老齢厚生年金」です。

厚生労働省が公表している「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、国民が受け取れる老齢基礎年金と、老齢基礎年金と老齢厚生年金の合計受給額の平均は以下のとおりになっています。

・老齢基礎年金:56,428円/月
・老齢厚生年金(老齢基礎年金を含む):144,982円/月

現役時代に納める厚生年金の保険料は収入に応じて変化し、多く支払った分だけ将来的に支給される老齢厚生年金額も増加します。一方の老齢基礎年金は、納付した月数に応じて受け取れる金額が決まります。

老後の生活に必要な費用は最低限の生活とゆとりを持った生活で大きく異なる

年金に依る毎月の収入が分かったあとは、毎月の支出がどのようになるかを考える必要があります。ただ、実際にかかる生活費の目安は、平均的な老後を過ごすのか、ゆとりある老後を過ごすのかによって変わる点に注意が必要です。

公益財団法人生命保険文化センター「2022(令和4)年度 生活保障に関する調査」によれば、老後にどのような生活を送りたいかによって、生活費は以下のように変化します。

平均的な老後の生活費:月23.2万円
ゆとりある老後の生活費:月37.9万円

平均的な暮らしをしたい夫婦の場合、平均すると月23.2万円の支出が必要になります。

仮に夫が老齢厚生年金と老齢基礎年金を平均通り「14.5万円」、妻が老齢基礎年金を「5.6万円」受け取っていたとすると、毎月の年金収入は「20.1万円」です。

支出と収入を比較すると、毎月3.1万円の不足が生じることになります。

生涯でどれくらいの不足が生じそうかは、平均寿命をみてみると分かります。

厚生労働省の「簡易生命表(令和4年)」によれば、2022年時点での日本人の平均寿命は男性で81.05歳、女性が87.09歳です。

仮に夫婦ともに65歳から20年生きると仮定する場合、生涯で不足する金額は「3.1万円×12ヶ月×20年=744万円になります。

一方、ゆとりある生活をするには平均的な生活費から14.7万円のプラスが必要になります。

月の不足額は「3.1万円+14.7万円=17.8万円」に大きく上昇します。生涯に不足する老後資金の概算は17.8万円×12ヶ月×20年=4,272万円です。

仮に夫婦ともに自営業の場合は2人とも老齢基礎年金しか受け取れないケースもあり、不足する金額はさらに大きくなるでしょう。

自身が受け取れる年金額と将来どのような生活を送りたいかをイメージしてみて、不足する分は現役時代からの貯金や退職金で賄う必要があるでしょう。

老後の費用は趣味やレジャー費用、予期せぬ出費なども考慮に入れる

老後に必要な生活費は、平均的な生活とゆとりある生活で毎月14.7万円もの違いがあります。ただ、実際はどのような趣味やレジャーにお金を使うかによって、必要資金は異なります。また、楽しいことばかりではなく、病院に入院したり介護を受けたりする際の費用、老後に負担する税金や社会保険料も考えておく必要があります。

総務省統計局「家計調査年報(家計収支編)」の令和4年版によれば、65歳以上の夫婦のみの高齢者無職世帯の支出の内訳は以下のとおりです。

【65歳以上の夫婦のみの高齢者無職世帯の支出の内訳】
食費 67,776円
住居費 15,578円
光熱・水道 22,611円
家具・家事用品 10,371円
被服及び履物 5,003円
保健医療 15,681円
交通・通信 28,878円
教育 3円
教養娯楽 21,365円
諸雑費 19,818円
交際費 22,711円
仕送り金 1,334円
直接税 12,854円
社会保険料 18,945円

なお、上記の表では住居費用が1万円台と安いですが、賃貸では毎月の家賃負担がかかることから更に負担が大きくなることが考えられます。

2

「健康」と「介護」のコストを把握する

老後を健康で過ごせれば良いのですが、必ずしも元気で生涯を過ごせるとは限りません。「医療費」「介護サービスの利用」にどれくらいのコストがかかるのかは、老後を迎える前から考えておく必要があります。

また、医療費や介護費用がかかることを見越して、適切な保険の選び方も知っておきましょう。

医療費の大半は65歳以上に必要になる

厚生労働省の「生涯医療費(令和2年度)」という資料によれば、生涯にかかる医療費の合計は2,695万円です。そのうち60%近い1,585万円は65歳以降にかかることになります。

ただし、実際にはこの金額が全てかかるわけではありません。健康保険や後期高齢者の存在により自己負担が3割以下まで抑えられるためです。

厚生労働省の別の資料を参照すると、医療費に対してかかる自己負担と保険料の金額は以下のとおりになっています。

【年齢階級別の1人あたりの医療費、自己負担額及び保険料の比較】
年齢 医療費 自己負担 保険料
60歳~64歳 37.7万円 7.6万円 24.2万円
65~69歳 47.0万円 8.6万円 15.8万円
70歳~74歳 60.5万円 7.2万円 12.2万円
75~79歳 76.9万円 6.5万円 8.5万円
80~84歳 90.9万円 7.4万円 7.7万円
85~89歳 104.0万円 8.1万円 7.1万円
90~94歳 113.2万円 8.4万円 6.7万円
95~99歳 118.5万円 8.2万円 5.7万円
100歳~ 115.1万円 7.7万円 4.4万円

60歳以降はどの年齢でも自己負担は6~8万円程度で収まります。自己負担額は現役世代なら医療費の3割ですが、高齢になるごとに低下して一般的な所得なら70〜74歳で2割、75歳以降は1割負担となるためです。一方の保険料負担は年を重ねるごとに低下しています。

介護サービスのコストは一時的な費用と月々の費用に分かれている

老後を迎えると、徐々に介護が必要になる人が増えていきます。生命保険文化センター「2021(令和3)年度生命保険に関する全国実態調査(速報版)」によれば、介護に必要な費用は以下のとおりです。

住宅改造・介護用ベッドの購入費などを含む、一時的な費用の合計:平均74万円
毎月必要になる介護費用:8.3万円

介護を行った場所によっても、月ごとの費用感は大きく異なります。在宅なら平均4.8万円、施設は平均12.2万円が月額でかかる平均費用です。

また、介護を行った期間(すでに介護を行っている人は、介護を始めてからの経過期間)について、平均で61.1ヶ月(5年1ヶ月)という結果が出ました。

介護に要する費用としては「74万円+(8.3万円×61.1ヶ月)=約581万円という計算になります。

老後資金の貯蓄を計画する際は、老後の生活費にこれらの費用が加わることを見越しておく必要があるでしょう。

保険の選び方は医療保険やがん保険を中心に、死亡保障も検討する

老後を迎えたあと、病気に罹患するリスクが大きく上昇します。厚生労働省の「令和2年(2020)患者調査の概況」によれば、65歳を超えたあたりから受療率が大幅に増えていることが分かります。

【年齢階級別の受療率】
入院 外来
50~54歳 478 4,285
55~59歳 664 5,113
60~64歳 895 6,113
65~69歳 1,207 7,951
70~74歳 1,544 9,469
75~79歳 2,204 11,527
80~84歳 3,234 11,847
85~90歳 4,634 10,728
90歳以上 6,682 9,248

老後に入院や通院が増えることを見越し、公的医療保険ではカバーできない費用を補う民間の医療保険への加入を検討すると良いでしょう。

医療保険には総合的に病気やケガによる入院や通院をカバーできるものから、三大疾病(がん・脳卒中・急性心筋梗塞)に手厚く備えられる特約、がんに特化したがん保険などの選択肢があります。

一方、老後に子どもが独立していて配偶者も年金を受け取っているような状況では死亡保障の備えはさほど大きくなくても問題ありません。

まだ独立前の子どもがいるなら教育費用や子ども・配偶者の生活費、住居費用、葬儀費用といった支出に対して死亡退職金や遺族年金、貯蓄でカバーできない分を死亡保障でカバーするという方法もあります。

3

早いうちからの「資産形成」で備える

定年退職後の年金収入だけでは、ゆとりある生活はもちろん、平均的な生活にも不足する可能性があります。

そこで、不足するお金を補うための方法を知っておきましょう。

まず、定年後も働くという選択肢。定年後も現役時代に近い安定収入を得ることができれば、年金や退職金を使わずに生活を続けることができます。勤務先の再雇用制度を利用して同じ職場で働くだけでなく、アルバイトやシルバー人材センターの一員として空いた時間だけ働くという選択をすることも可能です。

また、定年後も働き続けることで、年金の繰り下げ受給も可能になります。年金の受給開始時期を遅らせる繰り下げ受給をすることで、老齢基礎年金でも老齢厚生年金でも1月につき0.7%が増額されます。最長の75歳まで繰り下げることができれば増額率は84%にもなります。

【年金受給開始年齢の繰り下げと増額率】
受給開始年齢 増額率
66歳0ヵ月 8.4%
67歳0ヵ月 16.8%
68歳0ヵ月 25.2%
69歳0ヵ月 33.6%
70歳0ヵ月 42.0%
71歳0ヵ月 50.4%
72歳0ヵ月 58.8%
73歳0ヵ月 67.2%
74歳0ヵ月 75.6%
75歳0ヵ月 84.0%

再就職や年金の増額に加え、すでに蓄えた貯蓄で資産運用をし、資産寿命を延ばすという方法があります。

例えば投資信託という金融商品は、複数の投資家から集めたお金を投資のプロが代わりに運用し、成果を分配してくれます。

投資先によっては数百~数千の銘柄に投資することにもなり、投資の鉄則であるリスク分散を自動的におこなえます。月に100~1,000円から始められるため、生活に支障がない範囲で余剰資金を投資に回すことも容易です。

低金利が続いている日本では預貯金で資産形成することが難しいため、投資信託などを活用して効率的に資産形成を進めることを検討しましょう。

平均寿命がのび続けている日本では、老後の期間が長くなりつつあります。老後資金が枯渇してしまうと長きにわたって生活が苦しくなるリスクがあるため、若いうちから老後資金の準備を進めておきましょう。

老後に向けてどのような準備が必要かを知りたい場合は、ファイナンシャルプランナー(FP)に相談してみましょう。お金の専門家であるFPが、老後の収入や生活費の試算、必要な貯蓄額の計算、選ぶべき保険や資産運用の方法まで、さまざまな対策をご紹介いたします。

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