年収と住宅ローン借入目安の関係とは?理想の額を組む方法をFPが解説
住宅の購入や新築を考えている方の多くが「自分はいくらまで借りられるのか?」という不安を感じているのではないでしょうか?
住宅ローンの借入可能額は年収と大きく関係しています。
住宅ローンの借入可能額について「年収の5倍まで」と考えている人も多いですが、審査の現場では一概に「借入額は年収の〇〇倍まで」とシンプルに決められているわけではなく、あくまでも「返済できるかどうか」という点が重視されています。
この記事では住宅ローンは年収の何倍まで借りることができるのか、住宅ローンの審査基準とともに詳しく解説していきます。
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目次
住宅ローンは年収の何倍まで借りられている?
住宅ローンは年収の何倍まで借りられているのでしょうか?
「2019年度 フラット35利用者調査」を見ると、年収の何倍まで借りられているのかは、「どのタイプの住宅を購入するのか」によって異なります。
住宅タイプ別の年収倍率について詳しく見ていきます。
出典:住宅金融支援機構「2019年度 フラット35利用者調査」
新築マンションは年収の約4.7倍
「2019年度 フラット35利用者調査」の主要指標によると、新築マンションを購入する人は平均で年収の4.7倍程度を借りています。
2019年にフラット35を利用して新築マンションを購入した人の世帯年収、借入額、自己資金、物件価格の平均は次の通りです。
物件価格 | 4,521.0万円 |
借入額 | 3,601.7万円 |
自己資金 | 736.2万円 |
世帯年収 | 762.5万円 |
物件価格年収倍率 | 5.93倍 |
借入金年収倍率 | 4.72倍 |
新築マンションの場合、平均的には夫婦の年収の6倍近い物件を購入し、年収の5倍弱の借入金を利用していることが分かります。
土地付き注文住宅は年収の約5.8倍
土地付き注文住宅を購入している人は年収の5.8倍程度の住宅ローンを利用しています。
2019年にフラット35を利用して土地付き注文住宅を購入した人の物件価格や住宅ローン借入額は次の通りです。
物件価格 | 4,256.8万円 |
借入額 | 3,621.2万円 |
自己資金 | 443.2万円 |
世帯年収 | 627.5万円 |
物件価格年収倍率 | 6.78倍 |
借入金年収倍率 | 5.77倍 |
土地付き注文住宅を購入する世帯は、新築マンションを購入する世帯よりも年収が若く、年収も自己資金も少ない傾向があります。
そのため、物件価格と借入金に対する年収の倍率も高くなっています。
建売住宅は年収の約5.4倍
「2019年度 フラット35利用者調査」の主要指標によると建売住宅を購入する人は平均で年収の5.4倍程度を借りています。
物件価格 | 3,494.3万円 |
借入額 | 3,005.0万円 |
自己資金 | 282.4万円 |
世帯年収 | 558.6万円 |
物件価格年収倍率 | 6.25倍 |
借入金年収倍率 | 5.38倍 |
建売住宅を購入する世帯は家族構成も夫婦の年齢層も土地付き注文住宅を購入する世帯とほぼ同じですが、建売住宅の方が土地付き注文住宅よりも価格が安いので、平均的には年収の5.4倍程度の住宅ローンを借りています。
住宅ローン審査の融資額の決まり方とは?
住宅ローン審査においては融資額と年収は密接に関係しています。
しかし必ずしも「年収の〜〜倍」という形で融資額が決まるわけではありません。
審査ではさらに詳細に「この返済額と年収から無理なく返済できるかどうか」という視点から住宅ローンを審査しています。
住宅ローンにおける融資額の決まり方を詳しく解説していきます。
年収の5倍以内は高金利時代の古い考え
「借入額は年収の5倍まで」と、よく言われるものの、実際には借入額と年収は直接関係しているわけではありません。
1992年、当時の政府が「生活大国5か年計画」という国民が豊かさを実感できるための計画を発表しました。
そこには、次のような記載があります。
大都市圏では地価が依然として高水準で中堅勤労者の住宅取得が困難となっていることから、東京を始め大都市圏においても、勤労者世帯の平均年収の 5 倍程度(諸条件の下における住宅の取得のために調達可能な資金額)を目安に良質な住宅の取得が可能となることを目指して、できる限りこれに近づけるよう、適正な地価水準の実現を図るための総合的な土地対策を着実に推進するとともに、住宅対策等の諸施策の充実を図る。 |
当時は住宅ローン金利が5%〜8%という非常に高い時代でした。
そのような中において、会社員が住宅を取得することは非常にハードルが高かったため、政府は「年収の5倍程度で住宅が取得できるよう地価水準を抑えよう」という目標を掲げました。
「年収の5倍までしか貸してはならない」という決まりではなく、あくまでも「地価を抑えよう」という目標でしたが、政府が「年収の5倍」という具体的な数字を示したことによって、世間一般で「住宅ローンの借入額は年収の5倍まで」という考えが広がったものと考えられます。
当時の住宅ローン金利である金利5%で4,000万円を返済期間30年で借りた場合の毎月返済額は214,728円ですが、超低金利時代の現在は1%前後で住宅ローンを借りることが可能です。
金利1%で4,000万円を30年返済した場合の毎月返済額は128,655円と、10万円近くも返済額が少なくなります。
超低金利時代の今、金利5%時代の「年収の5倍まで」という目安に合理性は失われており、今は年収の5倍を超える借入をすることも可能です。
返済負担比率とは?
以前は「住宅ローンの借入額は年収の5倍まで」という考えでしたが、今は返済負担率で借入可能額を算出するのが一般的です。
返済負担率とは「年収に対する年間返済額の比率」のことです。
つまり、「借入額は年収の何倍か」ではなく、「年間返済額は年収の何%」なのかで借入可能額を逆算していきます。
なお、フラット35の返済負担比率は年収400万円未満であれば30%以下、年収400万円以上であれば35%以下と決められています。
年収400万円の世帯であれば、その35%である140万円までの年間返済額に収まるローンであれば借りられるということです。
出典:フラット35「年収による借入額などの制限はありますか。」
審査金利とは?
返済負担率を計算する際には、借入金利ではなく審査金利というものを使用して、「いくらまで借りることができるのか」を計算しています。
審査金利は実際の借入金利よりも高くなっていることが一般的で、基本的には優遇なしの住宅ローンの基準金利で計算されることが一般的です。
例えば、三菱UFJ銀行の2023年6月現在の住宅ローン基準金利(返済・毎月型・保証料一括)は2.475%です。
返済負担率を求める際には、この審査金利から返済額を計算し、年収に対する1年分の返済額の割合が返済負担率となります。
年収から借入金額を逆算する方法
では実際に年収から借入金額を計算していきます。
まずは、以下の計算式で「年収からいくらの返済ができるのか」を計算します。
年間返済可能額=(年収×30%(35%))
次の年間返済額からいくらの借入ができるのかを次の計算式で算出します。
『年間返済可能額÷12カ月÷審査金利での100万円あたりの返済月額×1,000,000円』
では実際に年収600万円の人の借入可能額がいくらになるのかを審査金利2.5%、借入期間30年で計算してみましょう。
年間返済可能額=600万円×30%=180万円
審査金利での100万円あたりの返済月額(返済期間30年)=3,951円(計算ツールで算出)
借入可能額=180万円÷12か月÷3,951円×100万円=3,797万円
なお、借入可能額は計算ツールで返済額から逆算することもできます。
年収別の住宅ローン借入限度額
では年収別にいくらの借入ができるのか、400万円、600万円、800万円に分けてシミュレーションしていきます。
年収400万円の借入限度額
年収400万円、審査金利2.5%、返済期間30年の借入可能額の計算は次のようになります。
年間返済可能額=400万円×30%=120万円
審査金利での100万円あたりの返済月額(返済期間30年)=3,951円(計算ツールで算出)
借入可能額=120万円÷12か月÷3,951円×100万円=2,531万円
返済期間ごとの借入可能額は次の通りです。
20年 | 1,887万円 |
25年 | 2,229万円 |
30年 | 2,531万円 |
35年 | 2,798万円 |
年収600万円の借入限度額
年収600万円、審査金利2.5%、返済期間30年の借入可能額の計算は次のようになります。
年間返済可能額=600万円×30%=180万円
審査金利での100万円あたりの返済月額(返済期間30年)=3,951円(計算ツールで算出)
借入可能額=180万円÷12か月÷3,951円×100万円=3,796万円
返済期間ごとの借入可能額は次の通りです。
20年 | 2,830万円 |
25年 | 3,343万円 |
30年 | 3,796万円 |
35年 | 4,196万円 |
年収800万円の借入限度額
年収800万円、審査金利2.5%、返済期間30年の借入可能額の計算は次のようになります。
年間返済可能額=800万円×30%=240万円
審査金利での100万円あたりの返済月額(返済期間30年)=3,951円(計算ツールで算出)
借入可能額=240万円÷12か月÷3,951円×100万円=5,062万円
返済期間ごとの借入可能額は次の通りです。
20年 | 3,774万円 |
25年 | 4,458万円 |
30年 | 5,062万円 |
35年 | 5,595万円 |
返済負担率で借入額を計算する際のリスク
返済負担率を基準に借入額を決めることには次の2つのリスクがあるので注意しなければなりません。
- ・借入可能額は借入期間が長くなると多くなる
- ・額面収入の30%が返済に回ったら生活ができない
年間返済額ギリギリで借りてしまうと返済負担が非常に大きくなり、場合によっては生活が成り立たなくなってしまいます。
返済負担率を基準に借入額を決めることの2つの注意点について詳しく解説していきます。
①借入可能額は借入期間が長くなると多くなる
返済負担率は年間返済額を基準とするため、借入期間が長くなれば借入額も大きくなります。
例えば年収500万円の人が25年返済をする場合には、2,786万円借りることができます。
しかし、どうしても3,000万円の借入額が必要な場合には30年近くのローンを組まなければなりません。
例えば、この人の年齢が40歳の場合、25年ローンであれば完済時年齢が65歳ですが、30年ローンを借りた場合の完済時年齢は70歳になってしまいます。
完済時年齢を高齢にすればするほど、多くの金額を借りることはできますが、定年退職してから住宅ローンを返済していくことは生活に大きな負担になるので十分に注意しましょう。
②額面収入の30%が返済に回ったら生活ができない
返済負担率は額面収入で計算するため、「返済負担率30%」は手取り収入の30%ではありません。
手取り収入は額面収入の6割〜7割と言われていますし、昨年の国民負担率は47%と言われているので、買い物の際に支払う消費税なども考慮すると、実際にはさらに手取りは少なくなっている可能性があります。
そのため、額面収入が500万円の人の手取り収入は300万円〜350万円程度だと理解しておきましょう。
額面収入500万円の人が返済負担率30%の住宅ローンを組んだ場合の年間返済額は150万円です。
これでは手取りの半分程度が返済金に回ってしまうことになり、これでは生活していくことは非常に困難です。
住宅ローンの規定上、額面収入の30%程度までは返済が許容されますが、本当に規定ギリギリで住宅ローンを組んでしまったら、生活していくことは非常に困難だと理解しておきましょう。
住宅ローンの借入額はどの程度が適正?
住宅ローンの借入額は返済負担率からギリギリを逆算するのではなく、「手取りの収入」から、無理のない範囲で借りることがベストです。
「いくらまで借りられるのか」ではなく、「どの程度であれば適正な借入額なのか」に基づいて借入額を計算することが重要になります。
以下のポイントを押さえて借入額を計算しましょう。
- ・家賃の平均支出は収入の3割
- ・額面ではなく手取りで計算する
- ・手取り年収の20%~25%程度
- ・配偶者の年収を当てにしすぎない
無理なく住宅ローンの借入額を計算する際の4つのポイントについて詳しく解説していきます。
家賃の平均支出は収入の3割
国土交通省の2020年度「住宅市場動向調査」では、賃貸住宅に住んでいる人の平均家賃は76,059円(月額)、共益費の平均額は4,575円(月額)で、賃貸住宅の年間家賃の平均は(76,059円+4,575円)×12ヶ月=967,608円です。
日本の世帯年収の平均は486万円ですので額面収入は300万円〜350万円程度です。
つまり、平均的には27%〜32%程度が手取り収入に対する家賃の割合です。
住宅ローンの返済額を計算する際には「手取り収入の3割」を目安に返済計画を立ててください。
額面ではなく手取りで計算する
自分で返済負担率から借入可能額を計算する際には、額面ではなく手取りで計算することが重要です。
例えば、額面500万円の年収がある人が返済負担比率30%の住宅ローンの借入を検討する場合、額面から計算すれば年間150万円の返済まで許容されます。
しかし、額面年収の30%は手取り収入の半分程度にもなってしまいます。
そのため、額面500万円の60%である手取り300万円程度で返済負担率を計算すれば無理なく返済できる金額を算出することができます。
「額面×60%×30%」で年間返済額を計算すれば「無理なく返済できる金額はいくらか」を算出できます。
額面年収500万円の場合には90万円です。
このケースでは年間90万円程度の返済額に収まるように住宅ローンを返済すれば生活に無理が生じる心配はないでしょう。
手取り年収の20%~25%程度
より余裕を持って生活するためには30%の住居費の比率ではなく、それよりも低い20%〜25%程度の比率で住宅ローンを組んだ方が安心です。
子供の学費など、将来に向けた貯蓄をするのであれば、手取り年収の25%以下に留めておいた方が、さらに余裕を持った生活ができます。
可能であれば、手取り収入の25%以下になるような返済計画を遣唐してください。
配偶者の年収を当てにしすぎない
返済負担率は世帯の年収で計算できます。
そのため配偶者が働いている場合には、配偶者の収入も含めて計算できます。
しかし、特に女性は将来的に出産によって育休などを取得したり退職したりする可能性は十分あり、今の収入が住宅ローン完済までずっと続くとは限りません。
そのため、配偶者の年収を当てにしすぎる返済計画を立てることは危険です。
「万が一の場合には、主たる債務者1人でも問題なく返済できる」という返済計画を立てるようにしてください。
まとめ:借入目安は手取りの30%以下
住宅ローンは平均的に年収の5倍〜7倍程度が借りられています。
しかし実際の審査の場では「借入額は年収の何倍か」という審査は行っていません。
審査では返済負担率によって借入額を決定しているため、返済負担率さえ基準内に収まれば年収の何倍もの住宅ローンを組むことができます。
返済負担率とは「住宅ローンの年間返済額が年収の何%か」というもので、一般的には30%〜35%以下というのが基準です。
しかし返済負担率だけを根拠に借入額を計算すると借入額が多くなりすぎる傾向があり、額面年収の30%もの金額が返済に回ってしまったら生活は非常に苦しくなります。
生活に無理のない適正な住宅ローンの借入額は手取りの30%程度です。
さらに余裕をもって返済をしていきたいのであれば、手取年収の25%以下を目指してください。
「自分の年収からどの程度の住宅ローンを借りられるのか」「いくらであれば、生活に無理のない金額なのか」ということを知りたいのであれば、まずはFPへ相談してみましょう。
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